山のような資料の中から、偶然一番上にのていたのは、一昨年の星月学園の生徒募集の案内パンフレット。先日星月先生から来年の適当に作っといてくれと頼まれたのでダンボールから引っ張り出してきたものだ。ページ数とかその他全部、適当でいいからとか言われたのだ。本当にあの人は何かあればレッツ☆適当だ。まあ、でもこういうのを派手に作れるあたり、さすが私学だなあと思う。パラパラとめくっていると、共学であることをやたら強調していることに気づく。これ作ったやつどれだけ女の子に入って欲しかったんだ?共学なんて名前ばっかりだけどな…なんて思いながら、俺が押しつけた明日提出の資料を作っている"学園唯一の女の子"である夜久に話しかけた。
「なあ夜久、お前、女1人ってのは嫌じゃないのか?」
ふと気になった。ちょっとした好奇心。 俺は夜久の口から泣き声が漏れるのを聞いたことがない。 きっと俺だけじゃないと思う。幼なじみである彼らも聞いたことないんじゃないかと思う。
「そんなの、
嫌に決まってるじゃないですか。」
「…だよな」
俺の問いに当たり前だというように笑って答える。
そりゃそうだ。男子校でしかも全寮制だ。俺が女子校に1人男子とか考えたくもない。嫌すぎる。というかありえねえ。まず選択肢にも入れない。
では、ここで問題だ。
夜久はどうしようもなく女子ひとりという壁にぶつかった時、どうしているのだろう?
「嫌ですけど、でも・・・ずっとずっと変わらず大切にしてくれる幼なじみがいて、性別なんて関係なくライバルだって言ってくれる仲間がいて、どんなときでも見守ってくれる先生がいて、私をたくさん笑わせてくれる生徒会のみんながいて、」
そこで一旦言葉を区切り、作業の手をとめ、くるりと椅子を回転させ、俺の方を見て続きを話しだす。
「だいすきで、たくさん愛してくれる会長がいるんですよ?
それだけで、女子1人っていうマイナスなんてはあっという間にプラスに変わるんです。」
そう言う夜久の言葉に嘘はひとつもなかった。
今やっとわかった。泣きたいときも、情けなくなるとも、どうにもならないときも、夜久は俺たちの前では必ず笑っている。それが決して本当の笑顔じゃなくても、それでも夜久は笑うのだ。
「…なあ、こっち来てくれ。」
「どうしたんですか?」
俺の突然の要求にもちゃんと答えてくれて、なんだかいつも以上に全てが愛おしくて、壊さないように抱き締めて心の中で思いを伝える。
お願いだから、泣いてくれ。辛いときは助けを求めて叫んでくれ。張り裂ける前に俺に背中を任せてくれないか?俺はお前に頼りにされたいんだよ。本当の笑顔だけを見ていたいんだ。
「やっぱり俺お前のことが好きすぎるわ。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってくすぐったそうにくすりと笑った。
貪欲
(でもやっぱり女の子に入ってほしいんで頑張ってパンフレット作ってくださいね?)
(…わかってるよ)