その日は偶然朝から頭が痛くて仕方がなかった。
「本当に偶然だねー。これはディスティニーだね!」
『喜んでいいのかわからないな…』
3月◎日(※)
本日うまい堂の1カ月に1回のフェアの日である。
そんな日に私たちがデートの約束をしないとかそういうことがあるだろうか。
あるわけがないのである。
しかし人間という生き物は不思議なものでそういう日に限って、
ふいの体調不良が襲ってくるものである。
「なんでだろうね、昨日雨の中遊んだからかな」
『え、昨日雨降ったのか?』
「あ、それはゲームの中の話だった。」
『…』
携帯電話を耳に当てながらジャケットを着る。
片手でブーツを履くなんてのはさすがに至難の業だったので残念だったけど諦め
た。
鏡の前で軽く髪型を整えてガチャリとドアを開けた。
『…お前、今外に出なかったか?何してるんだ?』
「あ、うん。今家に親いないからコンビニにちょっと買い物に行くだけ。
うち今
何もないから。」
『でも、熱が出てるのだろう?家でじっとしてろ。』
「宮地君も熱出てるんだから、じっとしてなきゃだめだよー?
ポカリ飲んだ?ポカ
リ。」
『いや、俺はアクエリ派なんだ。』
「うそ!熱の時には普通ポカリでしょ!?」
『うちではスポーツ飲料はアクエリと決まってるんだ。
――じゃなくてだな!!』
「おお、宮地君のノリツッコミ…」
『本当に外出歩いたりして大丈夫なのか?』
「大丈夫だよー、すぐ近所だし。」
『でも…』
「はは、宮地君、おかーさんみたい。」
『なっ!』
「誉め言葉だよ?」
『…嬉しくない。』
「だろうと思った。お母さんみたいって錫也に言ってもいい顔されないもん。」
『…』
「宮地君?」
『――その、だな。その買い物も東月に頼べばよかったんじゃないか?』
「え?でも宮地君嫌でしょ?」
『嫌に決まってる!俺が元気だったらすぐに駆けつけて買い物だって何だってして
やる!
っけども、非常事態だから、仕方がない。今回限りは目を瞑る。』
「ぷっ、あはは!!」
『む、そこは笑うとこじゃないだろう!!』
「あはははは!!ごめんごめん!!
ふぅー、
うん、ありがとう。
でも大丈夫だよ、本当に。
心配してくれてありがとう。」
『大丈夫ならいいんだ…
無理に止めるようなことはしたくない。』
「そうだね。宮地君はそういう人だもんね。」
『意味深だな。』
「そんなことないよ。」
コンビニに入り、冷えピタとゼリーとその他病人グッズを手に取り、
いつものようにポカリを籠に入れそうになって
「危ない危ない」とその隣のアクエリを籠に入れる。
会計を済ませ、家とは真反対にある駅に向かう。
「―じゃあ宮地君、もう電話切るね、お大事に。」
『ああ。』
「ちゃんと寝てなきゃだめだよ?」
『お前もな。』
「近所の幼なじみの女の子に買い物頼んだりしないでね。」
『…俺は東月や七海みたいに可愛い幼なじみの女の子がいる恵まれた環境で育た
なかったからな。』
「へへ。そっか、よかった。」
『…また電話かけてもいいか?』
「うん、いいよ。」
『ありがとう。じゃあまた。』
「うん、また。」
ピッと電話を切ったところで丁度来た電車に乗り込む。
ガタゴトと車体を揺らす振動に体を委ねる。
「宮地君びっくりするだろうなー」
彼の驚いた顔を想像するとククッとこみ上げてくる笑いを抑え込むのに必死だった。
そろそろお気づきのとおり、私が風邪を引いてるというのは何でもない、ただの嘘。
宮地君から『風邪を引いたから今日はいけない』と電話が来たときに、
つい出来心から
「私もなの。」と口走ってしまったことが事の発端だった。
咄嗟に出てきた言葉とはいえ、我ながら上出来だ。
きっと私は口先から産まれてきた希少な人物に違いない。
本当に私はどうしようもない人だなあと自分でも思うけど、こればっかりは仕方
がない。
そうだ、一応宮地君に聞いておかなくては。
「口先でしか生きれない女の子は嫌いですか?」
破れかけの嘘へ
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