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3.色褪せてしまっても
カシャっという携帯のカメラ特有の機械音で目が覚めた。不覚にも夜久との勉強会の間にいつの間にか眠ってしまっていたらしい。目の前の夜久のノートの問題は、さっき俺の記憶がまだあったときのまんまだった。
「あ、宮地君起きちゃった?」
「おー…」
「まだ寝てるじゃん」
「いや…起き、てる…」
「それは寝てる部類に入るよー」
どうも俺は寝起きに弱い。夜久に返事をするのも億劫になる。
「…」
「そんな目で訴えてこないでよー」
どんな目だよ…
「どんな目ってそんな目だよ」
……なんで心読まれてんだよ。
なんだかバカらしくなって、またつかの間の惰眠を貪ろうとそのまま、もそもそと机に突っ伏そうとすると、またカシャっとシャッターを切る音が聞こえた。
「…さっきから何を撮ってるんだ」
「宮地君」
「…なんで」
返事1つするにも脳内で一々会話を処理しなければいけないのがもどかしくなり、そろそろ寝るのを諦めようと思い、起きる体制に切り換えた。
「起きるの?」
「悪いか」
「悪かないけど…宮地君機嫌悪い」
「そんなことない」
「うそだー。あ、私が勝手に宮地君のこと撮って起こしちゃったから怒ったの?ごめんなさいっ。そんなつもりじゃなかったの!」
「ただ…宮地君が寝てるの珍しくて、…あまりにも可愛かったから、」
「今度宮地君がいつ私の前で寝てくれるかわからないじゃない?」
「だから、またいつでも見れるように、私の記憶に新しい宮地君を付け加えたかっただけなの!」
「でも頭の中に残しておくだけじゃ、いつ記憶が色褪せちゃうかわかんないでしょ?だから写真におさめとこうと思って… あのー…」
「…許してくれる?」
「おー…許す。」
許す許さない以前に怒っていないのだが…
まあ冗談で許さないと言ってもよかったが、そんなこと言ったらお前は本気にして今度こそ泣いてしまうだろう?
「…そんなことよりも、課題片づけなくてもいいのか?」
「!! やばっ」
半ば叫ぶように言うと夜久はうわーと本気で焦りながらノートと向き合った。
しばらく課題をこなす夜久をぼんやりと見ていたが、自分から課題をするように差し向けたくせに、自分に夜久の目が向いていないとと、どうも寂しくなって手を伸ばし、気をひこうと手を伸ばしくしゃっと夜久の頭を撫でた。
「うわっ。どしたの宮地君?」
「…がんばれ」
「? う、うん!」
素っ気ない態度しかとれないこと、思わず手を伸ばしてしまったこと。それはきっと全部全部寝起きのせいだ。そういうことにしておこう。