
嫌な季節だ
梅の花が咲くと同時に散り始めるこの時期、人々は別れを経験をする。
そして、桜の花が咲き、それに並行して散りゆく頃に出会いを経験するのだ。
人々は"別れ"の慰めに"出会い"を持ち出す。
俺はそれが嫌で仕方がなかった。
別れは別れで、出会いは出会いだ。
2つは並べるべきものではない。
しかし人は弱い。
相反するものを並べて正と負の差をなるべく零に近づけようとする。
そうやってバランスをとって生きていく。
それが正しい生き方。
いや、正しいというのはもしかしたら語弊があるかもしれない。
だが、俺が思う正しい生き方ってのはどれだけ綺麗な均衡を保って生きていけるか、な
のだ。
それが例えば、負ばかりが偏った人間。
どっかの誰かの様に別れに縋って腐敗した人間。
そんな存在を人々は心配し、同情する。
当の本人はといえばそんな価値もないのに、と余計沈み込む。
心配も同情ももう必要ない。
全部聞き飽きた台本に忠実な台詞だ。
あの夢のような日々が過ぎ去ってからもう1年以上が経つ。
あの頃どの行動が正しかったのか。
つまり、どの行動が最もバランスがよかったのか、未だにわからない。
俺は未だにわかろうとしない。
また、
間違えていたら、
嫌だ。
解答から逃げ惑う日々にうんざりしながらもそうするしか術がなくて、
見るたびに複雑で難解になっていくそれをもうどうすればいいかもわからない。
否、わかっているがその方法にどうしても
手を染めたくなくてわからないふりを続ける。
「折角の卒業式なんで最後に1枚だけ、
一緒に写真撮ってくれませんか?」
声をかけられたらきっと逃げれないと思ってのらりくらりと逃げていたのに…
なんてあっさりと捕まえてくれる。
「ほら、笑ってください。」
カシャッとなった機械音と共に誰が見ても分かる作り笑いが
やっと俺の顔から消
え去る。
「ありがとうございました」
「…いや、こっちこそありがとな。」
「何言ってるんですか。お礼を言うなんて先生らしくないですよ。」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ…」
間が開いた。しまったと思った。
だけど、もう遅かった。
地雷を踏んだと思い知らされた。
「―尊敬できる先生だと思ってますよ。
今も。昔も。この先も。」
そんなことをそんな顔で言わないでくれ。
やっとまともにお前の顔を見れるようになったと思ったら
またお前から目を逸らさなければならなくなるのか。
「部屋が汚くて、だらしなくて、女の私よりも何倍も色気があって、
それなのに
彼女の1人も作ろうとしない。
大馬鹿野郎だとも思いますけどね。」
「…失礼だな」
「冗談ですよ」と言って、からからと笑う彼女を見て、
俺はやっと笑ってくれた
、と胸を撫でろしていた。
それは俺に対する精一杯の作り笑いだったのかもしれないが
そこまで見抜くこと
はできなかった。
1年は短いが大きい。
正直、俺が再びこの笑顔を拝める日がくるとは思っていなかった。
「知ってますか?」
「何をだ?」
「逃がした魚は大きい。
ってことわざ。」
「……ああ、知ってるぞ。」
「1つだけ聞いてもいいですか?」
「…何だ?」
「先生は、逃がした魚を追いかける派ですか?
それともみすみすと逃がしてしまう派ですか?」
ぶ、わっと風が吹いた。
一体今日俺は何回思い知らされるのだろう。
…、本当に嫌な季節だ。