「―むかしむかし、と言うほど昔ではない最近の話。
あるところにそれはそれは美しい少女がおりました。」
「…先輩課題しなくていいんですか?」
誰でも知ってる御伽噺に
少し脚色を加えただけの話。
「してるじゃん。」
「手は動いてますけど、口も動いてますよ?」
「知らないの、梓君。手と一緒に口を動かすことによって勉強もよりはかどるん
だよ。」
「それは知ってますけど、それ英単語の話ですよね。」
「今日本語書いてるもん。漢字書いてる時に英語呟いてる方がおかしいよ。」
「…先輩もなかなか小生意気になりましたね」
「お褒めに預かり光栄です。」
ご丁寧に頭まで下げて頂きどうもはぐらかされた感がいっぱいだが、
今日の先輩の饒舌っぷりには僕もきっとかなわない。
「まあ、ただの暇つぶしだと思って聞いててよ。」
「そこまで言うなら聞きますけど…」
「よろしい。」
先輩は一瞬目線だけこっちに向けてすぐに戻し、
わざとらしくごほんっと1つ咳払いをして続きを話だした。
「その美しい少女は山の上の学校に通っていました。
そこの学校は狼の巣窟でした。」
先輩の目線の先には提出間近だという課題。
黙ってやった方がはかどるんじゃないですか?なんてもうあえて何も言いませんけど。
「右を見ても左をみても前後も上下も狼ばっかり。
『私はこのまま3年間狼に囲まれたまま終えてしまうのでしょうか。』
少女がそう思わない日はありませんでした。
いつの日からか少女は、少女と同じ人間の女の子が来る日を
ずっと待ち望むようになりました。
そして季節は巡り、山の上の学校で過ごす2度目の春がやってきました。
桜吹雪が舞う中、少女の前に少女が望んでいた"女の子"はとうとう現れませんでした。
悲しみに暮れて打ちひしがれていた少女の前に見慣れない
小生意気な狼が1匹現れました。」
「ストップストップ!」
「なに?」
「もう大体わかりましたから。」
「えーっ!こっからがいいところだよ!?」
「じゃあとりあえず、そのお話の結末がハッピーエンドかバッドエンドかだけ教
えてください。」
「そんなの決まってんじゃん。
これからハッピーエンドにしていくんだよ!」
「!! ・・・僕はもうハッピーエンドをもらいましたけど、ね」
どうぞお姫様、お手を。
快く手を取ってくれる先輩にいつも以上を感じた。
いつも、これ以上の人なんてないだろう。と思うのに、
先輩は毎日毎日、昨日以上を見せてくれる。
もういい加減心臓に悪いです。
(「そこまで言ったんだから最後まで責任とってくださいね、先輩」)
(「任しといてよ!」)